あらすじ
アルバイトをしながら漠然と小説家を志す主人公イ・ジョンスは、幼いころ近所に住んでいたシン・へミとたまたま再会する。

彼女のアフリカ旅行の間、飼っている猫の世話を頼まれたことをきっかけに、彼はヘミに好意を持つ。

しかし、空港で出迎えたヘミは旅先で出会ったという男、ベンと仲睦まじそうである。ベンは貿易の仕事をしているというが、高級車に乗り、高級マンションに暮らすなど歳のわりにとても裕福なようである。

ある日、突然ヘミとともにジョンスの家を訪れたベンは、ジョンスに「時々ビニールハウスを燃やすんです」と切り出す。犯罪では?と問うジョンスに対し、警察はそんな些細なこと気にしないのだよというベン。

ビニールハウスはまるで燃やされるのを待っているかのようだ、と。

総合評価 

評価:★★★★★
印象:悲しい・知的

物語のテーマ、映像表現、物語、キャラクター、そして世界観。どれをとっても素晴らしいの一言です。

今の韓国が抱える陰の部分を描いた作品ですが、日本でもよく似た状況は見られるため、日本人(の若い人)にもぜひ見てほしい、もっと知られてほしいという作品でした。

定価である1800円を払っても後悔しない作品というのが私の中で★4の評価であり、もう一度見に行きたい!周囲の人にもぜひ見てほしい!という作品が★5の評価です。

テーマについて

テーマに関しては、持つ者・持たざる者の対比があったと考えています。現在の韓国の状況を見抜いたものであり、これは今の日本にも当てはまる問題だと思いました。

映像表現について

映像表現ですが、観客がまるで主人公の立場になって物語を追えるような設計になっていたと思います。例えばカメラワークが何を見せるのか何を見せないのかによって、主人公の感情が現れていると感じました。

物語について

物語ですが、物語の前半では恋愛物語のような様相を呈しているものの、後半はサスペンス映画のような語り口です。観客にとって比較的親しみやすい三角関係の状況からの転換は一気に引き込まれる点でした。

キャラクターについて

キャラクターについて。漠然とした夢を持ちながらアルバイトを続けている主人公のジョンス。

家族と疎遠になり、仕事を転々としながらやりたいことを繰り返しながら暮らすヘミ。

そして一見何不自由なく暮らすように見えるベンだが、ジョンスと同じように今の生活に満足しているようには見えない。セリフで語られることは多くないが演技・演出でキャラクターが立っていると感じました。

世界観について

世界観。主人公の住まいが北朝鮮との国境近くに設定され、緊張感の耐えない場所であるからこそこの物語の行く先が暗示されているようにも思えました。

また、劇中のセリフで「ビニールハウスはたくさんある、警察は気にも留めない」と言っているように、このような出来事が現実で起こっていてもおかしくない、人はそれに無関心だ、というメッセージが込められていると感じました。

他の人に見てほしい理由

他の人に見てほしいと思うのは、一本の作品として見ごたえのある作品であると思っていたためです。。

そして日本を代表する作家である村上春樹による原作の舞台を、現在の状況に即してアレンジしたことで、ここまでメッセージ性を持たせられることができるのか、ということに驚く人は多いと思ったためです。

また、原作者の著名度と作品の完成度の高さがあるにも関わらず、映画好きの一部にしか届いていないという印象を受けていいてそれがとても残念です。

バーニング 劇場版のここが良かった

それぞれの特徴が素晴らしい

登場人物3人とも非常に、静かな演技が要求されるキャラクターですが、役者たちが非常に巧みに演じているのが印象的な作品でした。特にシン・ヘミを演じたチョン・ジョンソの演技が素晴らしい。

難しいキャラクター演じきった3人の演技力と、脚本の構成が良かったと考えています。端的に言えば「登場人物たちの複雑な個性を表現していること」です。

  • 今まで演じてきた役とは全く異なる性格の、主人公イ・ジョンスを演じたユ・アイン
  • どういう人物なのか非常にわかりづらい男である、ベンを演じたスティーブン・ユァン
  • そして何より今回が初の演技である、シン・ヘミを演じたチョン・ジョンソ。

イ・ジョンスは現代の若者の多くが共感するだろう、人生の目標が見えないことへ不安を抱えた内気な青年

ベンは観客にとっても謎の多い存在であるが、定期的に「ビニールハウスを燃やす」ことで、精神を安定させているようにも思えます。

そしてシン・ヘミは多額の借金を抱え、家族も頼れず友達もいない、職場の人間関係も非常に希薄な、この世との繋がりの非常に薄い存在でした。

ヘミの存在感

この物語の中でジョンスとベンがヘミに惹かれた理由は、それぞれ異なるものでしたが、その見せ方が素晴らしい。

非常に繊細な脚本の構成、そしてヘミをきっかけにこの二人の男性の人生が交差することになりました。今回初めて作品に出演したチョン・ジョンソの絶妙な演技力によって形作られたヘミの雰囲気は言葉にできない完成度があります。

内向的で家庭の問題を抱えたジョンスのような男性が、心を惹かれてしまう自由奔放さや手に入りそうで入らない距離感を、ジョンソは絶妙に演じていました。これがデビュー作であるなど、誰も信じられないでしょう。

印象に残ったセリフ・シーン

ヘミとベンが突然ジョンスの家を訪れ、酔ったヘミが夕焼けの中で躍るシーンが大変印象的でした。鑑賞者として、この物語の転換にワクワクしていました。

「リトルハンガーの踊り」と「グレートハンガーの踊り」

それよりも前のシーンでヘミは、アフリカで出会った民族の文化では「リトルハンガーの踊り」と「グレートハンガーの踊り」がある、と語ります。

リトルハンガーは「食べ物が無く」飢えている者たちを指し、グレートハンガーは「生きる理由に」飢えている者たちを指すのだそうです。

この物語の中でジョンスは、それまで定職に就かず実家に出戻ってモラトリアムの中にいるようでしたが、この躍りのシーンの後に「ビニールハウスを燃やしているんです」というベンの告白により、自分が何をするべきかを考え始めます。

つまり、このシーンはジョンスがリトルハンガーからグレートハンガーへと、変貌することを表しているのです。

そして踊ったヘミが寝入ってしまい、二人になったタイミングで、ジョンスに今まで誰にも話したことのなかった秘密を打ち明けます。彼にとってもこのヘミの踊りは非常に重要なものであったのでしょう。

美しい夕焼け

また、夕焼けの中で彼女が躍るシーンはそもそも光の取り入れ方がとても幻想的で美しいシーンでもあります。おそらく、本当の夕焼けよりも長く尺を取られたこのシーンは、物語の転機でもあります。

このシーンは視覚的に非常に美しいことに加え、物語の中でも非常に重要な意味を持つシーンなのだと考えます。

こんな人にオススメ

村上春樹の原作を読んだことがある人にお勧めしたいです。

今から30年以上前に発表されたこの原作から、本作の監督であるイ・チャンドンは大胆な改変を加えました。舞台を現代の韓国に移し、主人公やヘミの性格・状況も完全に様変わりしています。

原作は短編ということもあり読者にゆだねられていた部分の多い作品でしたが、本作は丁寧に読み解けば何が起こっているか、そしてジョンスがどのようなことを考えたかが読み取れる構造となっています。

村上春樹の書いた短編が、時代と国境を越えてこのような形を与えられていることに驚きを覚えることでしょう。

バーニング 劇場版の裏情報・小話

韓国では「持つ者」「持たざる者」の差が非常に大きくなっているそうです。

それがジョンスとベンの環境の差であり、ヘミの持つ思考に繋がっているのでしょう。おそらく日本でも似た感覚を持つ人は多いと思いました。